このブログでは、管理者の北河内学が「相続・事業承継アドバイザーFP」として、相続・事業承継について市民目線で意見を投稿しています。


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相続手続きに携わる方々の話で一般的に「お子さんのいないご夫婦」に遺言書作成を推奨する事があります。

この投稿では、遺言書を書く前に、銀行員として多くの相続手続きに携わり顧客と対話してきた経験から、まず「何が大変なのか? 本当に大変なのか?」を見ていきたいと思います。



お子さんのいないご夫婦の相続は何が大変なのか?
~問題発見編~




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



目次
1 お子さんがいないご夫婦の相続
・1-1 前提モデルのご夫婦と親族
・1-2 法定相続人は誰か?
2 相続発生で何が起こるのか?
・2-1 生命保険は死亡保険金受取人が単独請求
・2-2 銀行預金は原則相続人全員による払戻請求が必要
・2-3 貸金庫は単独で中身の確認すらできなくなる!
・2-4 住宅ローンは団体信用生命保険付きであれば単独請求可能
・2-5 不動産は相続人全員の共有状態になる!!
3 奥様Bはどれほど大変なのか?
・3-1 戸籍謄本の取得と相続人の特定
・3-2 親族相続人への配慮
・3-3 遺産分割協議の調整
4 兄Eの困惑
・4-1 亡きAおよび配偶者相続人Bへの配慮
・4-2 自身の家族の介入
・4-3 遺産分割協議・相続放棄の煩わしさ
5 弟Fの拒絶反応
・5-1 遺産分割手続きの拒絶
・5-2 連絡不能の可能性
6 弁護士等専門家支援の必要性
7 遺言書による問題解決

1 お子さんがいないご夫婦の相続

相続時において、お子さんがいないご夫婦の相続手続きは一般に手続きや交渉が大変だと言われます。

そして、その問題解決の手段として遺言が有効であると言われます。

それでは、本当に何が大変なのか? 見ていきたいと思います。

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・1-1 前提モデルのご夫婦と親族

以下、検討するモデルを次の通りとします。

A  あなた 男性 今回亡くなった方(被相続人)
B  奥様  相続人 大阪府在住
C  父    あなたの実父 既に他界
D  母    あなたの実母 同上
E   兄    あなたの実兄 東京在住
F   弟    あなたの実弟 音信不通

 

・1-2 法定相続人は誰か?

本件の場合、民法上あなたの法定相続人は、配偶者である奥様B、血族相続人第三順位の兄D、弟Eの3人となります。

配偶者は常に相続人となり、血族相続人は第一順位が子、第二順位が直系尊属(両親、祖父母等)ですが、それぞれ生存していないため、第三順位の兄弟姉妹が相続人となるためです。


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2 相続発生で何が起こるのか?

では本件事例の相続で何が起こるのか? 見ていきます。

 

・2-1 生命保険は死亡保険金受取人が単独請求

生命保険の死亡保険金は、一般的に受取人固有財産とされ、遺産分割の対象とはなりません。

従って死亡保険金受取人に奥様Bを指定しておく事で、相続発生後、奥様は単独で死亡保険金を請求できます。

但し、稀に受取人が両親や自分自身になっている事もあり、証券の記載内容をしっかり確認しておく必要があります。

なお、少しややこしいので、ここでは詳解を避けますが、生命保険受給権の相続は遺産分割の対象となります。

 

・2-2 銀行預金は原則相続人全員による払戻請求が必要

銀行等金融機関は預金者Aの死亡を把握すると同時にすべての取引店の同一名義口座を凍結します。

以降、入出金、振込入金、口座振替等すべての取引が停止してしまいます。払戻しには、奥様B、兄E、弟F共同での請求が必要になります。

EやFの協力がないと日々の生活資金に困る事にもなりかねず問題です。

 

・2-3 貸金庫は単独で中身の確認すらできなくなる!

最近は銀行の貸金庫を利用される方が増加しているようです。

銀行は貸金庫契約者Aの死亡を把握すると、以後、たとえ当初から代理人としている奥様Bからの申出であっても開扉しません。

貸金庫の中身が調べられず、相続財産の把握が困難になってしまうのです。

開扉には、奥様B、兄E、弟F共同での請求が必要になります。

 

・2-4 住宅ローンは団体信用生命保険付きであれば単独請求が可能

借入金等のマイナスの財産である債務のうち、住宅ローンについては、通常団体信用生命保険が付保されています。

この保険は債務者が死亡した場合の融資債権回収の手段として、銀行が受取人となり加入しているものです。

住宅ローン債務者Aが死亡した場合、団体信用生命保険が付保されていれば、奥様Bは単独で保険請求でき、保険金でローンは完済となります。

但し、注意が必要なのは、例えばローンが夫婦ABの連帯債務で団体信用生命保険も2人で按分付保しているケースがあり、この場合、按分割合でしか保険金返済となりません。残額ローン債務の相続、返済継続が必要になります。

いずれにしても、借りている住宅ローンの団体信用生命保険の内容をしっかり確認しておきましょう。
 

・2-5 不動産は相続人全員の共有状態になる!!

遺言がない場合、相続財産はすべて法定相続人の共有状態となります。不動産も例外ではありません。

本件事例の場合、A名義であった自宅も投資していた賃貸不動産も奥様B、兄E、弟Fの共有状態となってしまいます。

これは本当に困った事で、EやFの協力がなければ、奥様Bへの名義変更ができないのです

更に最悪の事態を想定して見ます。Fの借金を回収できなくて困っている債権者がいたとします。

この債権者が相続財産を把握し、手続きが進んでいない状況を知った場合、一定の手続きを踏んだ後、当該不動産の相続登記を債権者代位で実施し、更にFの相続持分に対して不動産(仮)差押え、賃料差押え、競売申請で回収手続きを実行する事が想定されます。本当に恐ろしい事です。


このように相続は様々なトラブルに巻き込まれる可能性があり、本件事例のような第三順位の遠い相続人が発生する案件は更に注意が必要です。

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3 奥様Bはどれほど大変なのか?

次に本件事例において、奥様Bの手続きがどれほど大変かを見ていきます。

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・3-1 戸籍謄本の取得と相続人の特定

本件事例の場合、相続手続きのイニシアティブは奥様Bがとる必要があります。

最終的なゴールは遺産分割の完了ですが、それに向かうためには、まず法定相続人の特定が必要です。そのために必要な戸籍謄本の取得を進めていく必要があります。

本件事例の場合は大量の戸籍謄本取得が必要となり、大変な労力がかかります。

具体的には、被相続人A、父C、母Dの出生から死亡までのすべての戸籍謄本、判明した法定相続人の現在の戸籍謄本を取得していきます。

通常戸籍は、婚姻、離婚、転籍、旧民法時は家督相続や分家など様々な原因で新戸籍への移転を経ているため、多数の市区町村役場に戸籍謄本の請求が必要です。本当に大変です。

 

・3-2 親族相続人への配慮

法定相続人が特定できたら、次はいくつかの遺産分割案を検討し、希望する遺産分割案を兄E、弟Fに提示し合意を目指します。

2人が「Aの相続財産はいらない」と言ってくれればいいのですが、手続きに協力してもらう以上は「ゼロで協力」というお願いはしにくいところでしょう。

 

・3-3 遺産分割協議の調整

また相続には、過去からの様々な感情が絡む事が多く、EやFが配偶者Bの提示した遺産分割案に応じないケースも十分に考えられます。

この場合、更に調整を図っていく必要があります。最終的に合意が困難と判断されれば、家庭裁判所へ調停を申立て解決を目指す事になります。

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4 兄Eの困惑

次に兄Eについて、心理状態を含め考えて見たいと思います。

 

・4-1 亡きAおよび配偶者相続人Bへの配慮

本件事例のような場合、通常兄Eとしては、配偶者相続人Bに配慮し、「相続財産はいらない」と回答するか、Bの提示案ですんなり合意するでしょう。しかし、もちろんそうならない場合も考えられます。

 

・4-2 自身の家族の介入

ありがちなのが、兄Eの家族の介入です。これらの介入者が相続手続きに介入し、相続財産の増額要求となり話がもつれる事があります。

 

・4-3 遺産分割協議・相続放棄の煩わしさ

いずれにしてもEは家庭裁判所に相続放棄の申述をするか、遺産分割協議書に署名押印し、印鑑証明書まで添付する必要があり、煩わしい手続きを避ける事はできません。

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5 弟Fの拒絶反応

次に疎遠になっており、ようやく居所が判明したFの心理を想定してみます。
 

・5-1 遺産分割手続きの拒絶

そもそも絶縁したつもりであたAの奥様Bによる捜索で居所を発見され、更に遺産分割協議に協力を求められるFの心理は複雑であり、協力を拒絶してしまう可能性もあります。

こうなると先の家庭裁判所への調停申立てに移行せざるを得なくなります。
 

・5-2 連絡不能の可能性

またFの居所がつかめない可能性もあります。この場合、一定の手続きを経て、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立て、選任された不在者財産管理人と遺産分割の合意を目指します。

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6 弁護士等専門家支援の必要性

いかがでしたでしょうか?

ここまで淡々と記述してきましたが、これらの手続きを奥様Bがすべて自身で行うのは現実的に困難と考えられます

交渉がこじれた場合の家庭裁判所への調停申立は当然ですが、遺産分割案の策定や交渉、実際の事務手続きもかなり難易度が高いですし、戸籍調査も本件の場合はハードルが高いです。

よって本件事例の相続手続きは弁護士等専門家の本格的な支援が必要となってしまいます。

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7 遺言書による問題解決

ですが、本件事例のような場合、なんとか遺産分割を回避する手段はないものでしょうか?

子供のいない夫婦が築き上げた財産をは配偶者のために残したいと思う事は自然です。

また、自身の相続で配偶者にこんな苦労をさせたくはないはずであり、また自信の兄弟に煩わしい手続きをさせたくないはずです。

今まで記述した本件事例のような相続の問題解決の有力な手段が遺言です。

遺言があれば、奥様がすべて相続し、単独で手続きを行う事が可能になります。(一般に事務手続きとして専門家の支援が必要な部分は残ります。)

遺産分割の手続きを経ないため、兄弟は煩わしい手続きから解放されます。

遺言でこれらの問題解決が実現できるのです

では、具体的な手続きがどう変わるのか? どう楽になるのか? はまた稿を改めて投稿したいと思います。










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以上です。





最後までお読み頂きありがとうございました。

北河内 学